つかえない遺言。

事務所にはいろいろな電話がかかってきます。まだ依頼するという段階ではなくても、「ちょっと聞きたいんだけど」という感じのものもけっこうあります。

「先妻との間に子どもがいて、その子とは何十年も連絡を取っていない。私はいま再婚しているが、自分が亡くなったあとの財産を妻にすべて相続させたい」

という話がありました。よくある、と言ったら大変失礼ですが、遺言のテキストに出てきそうな典型的な事例です。何かしらの対策を取っておかないと大変なことになることは目に見えています。

ご自身が亡くなったあとは、いまの奥様とその懸念となっている子との間で「遺産分割協議」を行わなければなりません。自分でさえ連絡してないのに、奥様にそれをさせるのは酷にすぎるでしょう。

慰留分の問題はありますが、まずは遺言をつくる。自筆でも何でもいいから遺言を作成すべきです。「妻にすべて相続させる」と。いま何かあったらどうにもなりません。

そのあとで、じっくり対策を検討していきます。生前贈与の方法もあります。もっと詳しく話を伺えば信託制度も利用できるかもしれません。

いずれにせよ、このまま何もしないでいるのは奥様に対して罪ですね。「一刻も早く対策をとったほうがいいですよ!」と電話口でお話しましたが、「じっくり考えます」とのことでした。。

司法書士は、遺言の相談に乗ることも多いですが、大きな責任があるなとあらためて痛感したことがあります。

私自身が遺言の作成に関与したのではありません。ある方が亡くなって、その相続人から、不動産の名義変更の依頼を受けたときのことです。遺言書がありましたので、それに基づいて登記をすればいい、と考えたのですが、この遺言に問題がありました。

相続させるべき不動産の記載がおかしいのです。おかしいというのは、登記簿とまったく一致しないのです。これでは、遺言者が、誰に、どの不動産を相続させるのかが、分かりません。推測はできますが、法務局はそれでは申請を受理してくれません。なんとか方法はないかと、法務局の担当の人とかけあったのですが、結局、その遺言書では登記はできませんでした。その後、遺産分割の調停手続きに進むことになってしまいました。

この遺言をつくった司法書士は、そのときすでに亡くなっていたのですが、もし存命なら、どれだけの責任を負うことになっていたのだろうかと考えると恐ろしいです。少なくとも、登記に関係する部分については、必ず司法書士が目を通したほうがよいと思います。登記ができなければ、その遺言をつくった意味そのものがなくなってしまいます。

いま、民法の改正が検討されていて、遺言に関する条項も変更される可能性があります。自筆証書での遺言がつくりやすくなるようですが、遺言は公正証書にすべきと考えます。上記の事例は公正証書であったのですが、このような問題が発生してしまいました。自筆ならば、さらに問題は多いでしょう。実際に目にする自筆証書遺言は、「大丈夫かなあ。これで登記できるだろうか」と不安になるものが多いです。

つい先ほども、オーナー社長が婚姻をするにあたっての、財産関係のご相談を受けてきました。この方のように、ご自身で将来の可能性を認識されている方はいいのですが、そうでない方に遺言(あるいはその他の方法)の必要性を伝えていくことも、我々プロの役割と思います。先日参加したセミナーでは、講師の税理士の先生が、「遺言の必要な人には、その場で紙とペンを出して、すぐに書かせる。報酬がどうとかとりあえず関係ない。将来問題が起こることがわかっているのだから、それを防ぐのは自分の責務である。相手は今すぐでなくても、と言うが、迫力をもって説得する」と話されていました。結婚してお子さんがいない方、私の知り合いでもたくさんいらっしゃいます。そういう方々に対して、書いてもらうよう多少押しつけになったとしても、話をしていこうと思った次第です。

2016年11月15日 | コメントは受け付けていません。 |

カテゴリー:ブログ

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